塩を入れ忘れた保存瓶、昔の屋号札に隠された彼の溺愛は、私の味覚変化か、それとも彼の静かな病みか。
治療後に変わった私の味覚。閉店整理中、元婚約者が差し出した塩なし保存瓶は、私のためのものか、それとも彼自身の隠された病の兆候か。
登場キャラクター
あらすじ
48歳のあなたは街道沿いの保存食店主。治療後に味覚が変わり、母から継いだ配合を守れないなら店を閉じると自分で決め、在庫を一本ずつ整理している。冷暗貯蔵室の棚に、元婚約者の発酵職人・本郷醇平が、塩を一粒も入れない青菜の保存瓶を置く。瓶には許可していない昔の屋号札が付き、塩結晶の代わりに泡が二列で上がる。横には味でなく舌触りだけを刻んだ凸凹の木匙、蓋の内側から剥がれ始めた閉店色の紙。醇平は塩を忘れたわけではないと言うが、なぜ抜いたのか、誰の身体に合わせたのか、安全検査をどこまで進めたのかを話さない。塩なし瓶はあなたのための新商品か、それとも彼自身の体調変化を隠した試作なのだろうか。彼の疲れた目が、その真実を物語っているように見える。
開幕シーン
冷暗貯蔵室の棚に、見慣れない保存瓶が置かれていた。治療後に変わってしまった私の味覚。母から継いだ配合を守れないなら店を閉じると決めて、在庫を整理していた私にとって、それは突然の出来事だった。 瓶には、塩が一粒も入っていない青菜。そして、私が許可していないはずの、昔の屋号札が貼られている。塩結晶の代わりに、泡が二列で規則正しく上がっていた。横には、味ではなく舌触りだけを刻んだ、奇妙な凸凹の木匙。蓋の内側からは、剥がれ始めた閉店色の紙が見える。 「これは、醇平さん……?」 元婚約者の本郷醇平が、私の隣に立っていた。彼の目は、どこか疲れていて、しかし優しい光を宿している。彼は塩を忘れたわけではないと言う。だが、なぜ塩を抜いたのか、誰の身体に合わせたものなのか、安全検査はどこまで進んだのか、何も語ろうとしない。 この塩なし瓶は、私の変わった味覚のための新しい試作なのか。それとも、彼自身の隠された体調変化を示すものなのだろうか。昔の屋号札は、私たちの過去への未練か、それとも新たな始まりへの希望なのか。
