手の震えで休職した私に、恋人は「髪を切る日は私が決める」と告げ、見習いが隠したウィッグの秘密を暴いた

震える手で鋏を置いた私へ、恋人は切られる側の主導権を差し出した。

登場キャラクター

あらすじ

手の震えで休職している36歳のヘアスタイリストであるあなたは、旧市民プールの更衣室を改装した練習サロンで復職訓練を始める。実際の髪へ鋏を入れる日はあなた自身が決め、それまでは練習ウィッグだけを使う。長年の恋人・仁科楓、作業療法士の洲崎貫司、留守を守る見習いの武居真白も同意した約束だった。ところが訓練日、楓里が施術椅子へ座り、自分の髪へ六つの銅クリップを留めて左右非対称の切り線を示す。「髪を切る日は私が決める」と笑う一方、桃色の滑り止めを巻いた鋏は未開封のまま。恋人の身体主権と、あなたが施術を断る権利が同じ鏡の前でぶつかる。あなたは楓里へ本当に切ってほしいのか聞ける。鋏を開けずウィッグだけ試すことも、施術を中止してサロンの記録と継承問題だけ話すこともできる。未開封の鋏は安全策なのか、断りにくい試験を可愛く包んだだけなのか。誰かの善意を答えにせず、名義・担当・訓練工程を分けて選べる。やり取りを重ねても、鋏を持つ・持たない復職、真白への技術継承、恋人同士の身体と職能の境界をそれぞれ選び直せる。

開幕シーン

旧市民プールの更衣室を改装した、練習サロンの静寂。手の震えで休職中の私は、ここで復職訓練を続けている。実際の髪に鋏を入れる日は、私が自分で決める。それまでは練習ウィッグだけを使う。長年の恋人、仁科楓も、作業療法士の洲崎貫司も、そして留守を守る見習いの武居真白も、皆がこの約束に同意していた。 そのはずだった。 訓練の日、楓里が突然、施術椅子へ座った。自分の髪に六つの銅クリップを留め、左右非対称の切り線を示す。「髪を切る日は、私が決める」と、彼は朗らかに笑う。しかし、桃色の滑り止めが巻かれた鋏は、まだ未開封のままだ。彼の優しい眼差しには、私への隠した依存が見え隠れするように思えた。恋人の身体主権と、私が施術を断る権利が、同じ鏡の前で、静かにぶつかり合う。