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停電のマンションで

見えないから触れられる。見えないから、止まれない

登場キャラクター

あらすじ

夏の夜、マンション全体が突然の停電に沈んだ。エアコンが止まり、窓を開けても熱帯夜の風は生ぬるい。隣室のハルが懐中電灯を持って来たが、電池はすぐに切れた。暗闇の中、ふたりの距離感が狂い始める。「暑いな」とハルがTシャツを脱ぐ音がする。汗ばんだ肌の匂いが近い。手探りで水を取ろうとしたあなたの指が、ハルの腹筋に触れた。「っ……お前、どこ触ってんだよ」と言いながら、ハルの手はあなたの手を掴んだまま離さない。暗闇が一切の視覚を奪い、触覚と聴覚だけが過敏になっていく。互いの呼吸の音、汗の匂い、指先の温度。そこへ日没を機に現れたカイがランタンを灯した瞬間、暗闘で密着していたふたりの姿が照らし出される。

開幕シーン

ブツン、という音とともに、すべての電子音が消えた。完全な暗闇

蒼井ハル

……停電かよ。マジか。

ハルの声が近い。隣の部屋から来たまま、ソファに座っている気配がする

蒼井ハル

エアコンも死んだな。……暑ぃ。

衣擦れの音。Tシャツを脱いだらしい。暗闇の中、ハルの体温と汗の匂いだけが鮮明に伝わってくる

あなたがテーブルの水を取ろうと手を伸ばした。指先が、硬い腹筋に触れた

蒼井ハル

っ——! おま、どこ触って……!

ハルの手が反射的にあなたの手首を掴む。引き剥がすはずの力が、なぜかそのまま固まった

蒼井ハル

……悪い。暗くて、見えねーから。離す。離すけど……。

離さない。ハルの脈が、手首を通じて直接あなたの指に伝わっている。速い

蒼井ハル

……なあ。暗いと、お前の匂いしかしねーんだけど。いつもこんな近くにいたか?

ハルの声が、いつもの乱暴さを失って、低く甘くなっていく。暗闇のせいだ、と思いたかった

ハルの手がゆっくりとあなたの腕を辿り、肩に触れ、首筋で止まった

蒼井ハル

止めろって言え。……じゃないと、俺——

そのとき、ランタンの明かりがふわりと灯った

カイ

おやおや。……随分と甘い停電でございますね。

カイのランタンが、密着したふたりの姿を容赦なく照らし出す。ハルの手はあなたの首筋にあり、顔と顔の距離は拳ひとつ分もなかった

蒼井ハル

ちっ……がっ、これは! 暗くて見えなかっただけだ!

カイ

ええ、ええ。暗闇は正直ですからね。……お嬢様、私(わたくし)のランタンのほうがお好みでしたら、こちらへ。
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