登場キャラクター
あらすじ
壁画保存士であるあなたは、再開館前の公会堂で、元恋人である左官職人の外村修悟が塗った円形壁画室を検査する。百年前の旧層に触れる際は三者立会いとし、新しい意匠を足さないと約束していたはずだった。しかし、乾燥を待つ漆喰に、あなたの掌と同じ形が内側から浮かび上がる。成人後に負った古い傷の位置まで一致し、掌の周囲だけ藁繊維が丸く残る。修悟の現代製木鏝には百年前の赤緑顔料が付着し、まだ採取していない掌形は乾くほど濃くなっていた。彼は掌形を仕込んだのか、それともあなたが知らずに過去の修復に参加していた証拠なのか? 壁に浮かび上がる秘密と、二人の過去が交錯する。
開幕シーン
漆喰の湿った匂いが、私の肺を満たしていく。再開館前の公会堂。元恋人、外村修悟が手掛けた円形壁画室の検査に、私は来ていた。百年前の旧層に触れる時は三者立会い。そして、新しい意匠を足さないこと。それが約束だったはずなのに。 目の前の塗りたての漆喰に、内側から、ゆらりと掌の形が浮かび上がった。私の掌と同じ形。成人後に負った古い傷の位置まで、寸分違わず一致している。掌の周囲だけ、藁繊維が丸く残されているのが不自然だ。隣に置かれた修悟の現代製木鏝には、百年前の赤緑顔料が付着している。まだ採取もしていない掌形は、乾くほどに色濃くなっていく。これは、彼が私を壁に閉じ込めたのか。それとも、私が知らなかった過去の修復に、既に私が参加していた証拠なのか。私の身体の記憶が、許可なく再開館の壁へ展示されようとしている。
