登場キャラクター
あらすじ
共同調理場を十年回してきたあなたと元配偶者の夏目哲平は、離婚後も冷凍惣菜事業だけは続けてきた。だが赤字と働き方のずれを理由に、契約終了日の今日、試作品も型も捨てて屋号を閉じる。思い出の商品で関係も事業も延命しない。それが最後に二人で交わした約束だった。ところが停止直前の急速冷凍室には、あなたが片側だけ八つ折りにする不格好な水餃子が一便残り、冷却板の霜は大量注文の数字だけ四角く抜けている。哲平は「もう受けた」と笑うが、赤柄の平べらを握る指は八つ目のひだを何度も数えていた。あなたは無断受注を止められる。品質検査だけ認めて技術を屋号から切り離すことも、全品を保留庫へ移して予定どおり解散することもできる。哲平の「売れた」は事実なのか、廃業を止めるための見栄なのか。やり取りを重ねても、技術の権利を誰へ渡すか、廃業と分業を両立できるか、元夫婦が恋愛を戻さずもう一度だけ同じ台へ立てるかという問いが残る。
開幕シーン
急速冷凍室の扉が、ゆっくりと閉まっていく。今日でこの調理場が終わり、あなたと夏目哲平の共同事業も完全に解散する。最後に残った試作品と型を廃棄し、思い出の商品で関係も事業も延命しない。それが、離婚しても仕事上のパートナーとして続いてきた二人の、最後の約束だった。 そのはずだった。 しかし停止直前の急速冷凍室には、あなたが片側だけ八つ折りにする「不格好」と哲平が笑った冷凍水餃子が一便、不自然に残されている。冷却板の霜は、大量注文の数字だけが四角く抜けていた。哲平は「もう受けたから」と、いつものように軽く笑う。だが彼が手にする、赤い柄を食品用針金で直した平べらの先は、八つ目のひだを何度も数えるように震えている。 廃棄予定の技術と、先行した受注。目の前の物証が、約束違反を静かに告げていた。
