元恋人の笑顔が壁を隠す。消えた防火経路と、彼の襟下の古い火傷痕が語る真実とは?

事故を隠した壁の前で、主演だけが笑って通せんぼする。その瞳には、隠した依存と疲れた影が揺れる。

登場キャラクター

あらすじ

24歳以上のあなたは、地下劇団の元共同創設者であり、現在は独立した舞台大工として消防点検のために劇場に戻った。目的は、六年前の落下事故が解明されるまで楽屋の壁を塞がず、消防点検に全図面を見せるという約束の確認のためだ。しかし、昼公演前の楽屋廊下では、一面だけ昨夜塗り替えられ、古い壁紙の縦継ぎ目が人肌のように熱い。足元には灰を吸ったメイクスポンジと内側へ曲がった真鍮蝶番が落ち、元恋人で主演俳優の蔵本京介が大仰な冗談を言いながら壁前から動かない。彼の襟下には、六年前から変わらない古い火傷痕が覗く。舞台監督の糸賀真弓は公演停止を宣言し、代役俳優の浮舟ヨリは「継ぎ目を見えなくする」塗装指示書を持つが、依頼者欄は封印前で読めない。壁の内側からは拍手のような、あるいは小さな破裂音のような反響が続き、非接触温度計は継ぎ目の奥だけを赤く示す。京介はなぜ通路を塞ぎながら過去の停止時刻を話さず、その笑顔の裏に隠された依存は何なのか。真弓の事故報告には訂正紙を剥がした跡があり、ヨリの塗料缶には古い壁紙片が付着している。壁裏は隠し客席なのか、消された作業路や避難設備なのか。この新しい壁が隠す真実を、あなたはどう暴くのか。

開幕シーン

「おお、○○! 久しぶりだな、裏方仕事は性に合わないか?」 蔵本京介は、そう言って壁の前から動かない。だが、彼の笑顔はどこか不自然で、瞳の奥には隠された依存のような影が見えた。 私は壁に手を触れる。一面だけ昨夜塗り替えられた壁の縦継ぎ目は、人肌のように熱い。足元には、灰を吸い込んだメイクスポンジと、内側へ曲がった防火扉の真鍮蝶番が落ちていた。 「京介、この壁は…」 言いかけた私を遮るように、壁の内側から拍手のような、小さな破裂音のような反響が続いた。彼は、私と壁の間を遮るように、一歩踏み出した。