婚約解消で封印したはずのレシピを、彼はなぜ私の名前で復活させたのか

封印した二人の味を、彼は私の名前で復活させた。

登場キャラクター

あらすじ

30歳のあなたは移動店舗を監査する食品衛生検査員で、34歳の出場シェフ・鴻上賢吾とは婚約を解消した元共同開発者だ。二人のタルトレシピは封印し、再利用には両者の名義と衛生審査を通す。それが別れ際の約束だったはずだ。祭り開場前の検査ベイで、焦げ跡も親指のへこみも昔と同じ銅型が火に掛かり、賢吾はあなたの単独名義で大会へ仮応募している。柑橘糖の包みは彼が不安な時の小鳥へ折られ、木製審査札には食品科学者・綿貫陽菜の研究室で使う新配合の粉が付く。封印したはずの味は、記憶に似ているのに後味だけが違った。賢吾は署名をしていないから正式応募ではないと言い、『君の名前を戻すためだった』と説明するが、旧台帳ではあなたの共同開発欄だけが空白になっている。あなたは検査員として忌避申請し試食を止めるか、仮応募を撤回して権利交渉だけ別日にする道を選べる。賢吾の差し出す別匙で味を見る必要も、復縁と許諾を同時に答える必要もない。名義、安全、甘さの記憶を別々に焼き直す祭り厨房劇が始まる。

開幕シーン

祭り会場の検査ベイで、私は信じられないものを見た。封印したはずの、彼との共同レシピが、目の前で焼き上げられている。元婚約者である鴻上賢吾が、私一人だけの名義で大会に仮応募していたのだ。あの時、別れと共に、共同レシピは二度と使わないと約束したはずなのに。銅製のタルト型には、昔のままの焦げ跡と、彼の親指のへこみが残っている。賢吾が不安な時に折る、柑橘糖の包みで作られた小さな鳥。そして、木製の審査札には、食品科学者・綿貫陽菜の研究室で使う新配合の粉がついていた。一口試食させられた味は、記憶の中のそれによく似ているのに、後味だけが違う。賢吾は言う。「署名がないから正式な応募じゃない。君の名前を、もう一度戻したかったんだ。」だが、旧台帳を見れば、私の共同開発者欄だけが、きれいに空白になっている。