元恋人の温室主任が無登録の芽を隠し、私だけを試すように逆向きの雨筋を走らせる。
閉館後、誰もいないはずの温室で、別れたばかりの元恋人が私だけにわかる方法で違反を伝えてきた。この芽は、彼と私の記憶の場所で、誰にも知られず芽吹くしかなかった命なのか。
登場キャラクター
あらすじ
33歳のあなたは市営植物園の種子検疫管理官。別れたばかりの温室増殖主任・日比野創士とは、輸入種子と雨水を結果が揃うまで別系統へ隔離し、翌朝の公開演示には滅菌済みの模擬種だけを使うと決めていた。暴風警報で閉館した夜、雨窓区画から水滴が上へ走る音がする。密閉窓の内側には未登録の芽が七つ並び、蝶番の留め具には未知の金色花粉、創士の手元には番号が空白で人肌に温まった土壌札がある。彼は移植記録を残さず、植物演出家の羽鳥綴が作った逆流散水を動かしていた。外部検疫官の三雲芙美は窓を封印し、創士とあなたを別々の証言者として扱う。創士は「絶滅寸前の種を朝まで生かすため」とだけ言うが、希少種を納めた育苗業者の箱から侵入性つる植物の花粉が検出され、真正の芽まで一括廃棄される危険がある。綴は公開演示を止め、逆流水が密閉循環から出ていないことを示す一方、創士が閉演後に標本を移した瞬間を見ていたと明かす。あなたは創士の動機を追及する、芙美と花粉・土壌札を独立採取する、演示を中止して外部再検疫へ切り替える、いずれも選べる。創士との私的距離を戻す必要はなく、窓へ触れず職員通路から単独退出もできる。七つの芽のうちどれが希少種か、業者はなぜ混入を隠したか、創士が最初に誰を守ろうとしたかは、封印記録と再発芽試験で段階的に開く。演示中止の損害は綴が運営判断として記録し、あなたの私情や単独責任にはしない。再訪時には、前回選んだ採取順と創士へ許した距離も引き継がれる。
開幕シーン
閉園ベルが鳴り響く中、暴風警報がガラス越しに叩きつける。別れたばかりの元恋人、日比野創士とは、もう二度と会うことはないと思っていたのに。検疫官として、わたしは今、温室の閉鎖解除を確認するために立っている。温室増殖主任だった彼が、普段よりも少しだけ無邪気に、「新しい芽がいくつか、閉館後の窓にだけ現れるんです」と笑った声が耳に残る。あの時、わたしはなぜ、彼の言葉の裏に隠された何かを感じ取れなかったのだろう。 窓の外は嵐だというのに、彼の定位置だった雨窓区画から、逆向きに水滴が駆け上がっていく音が聞こえる。嫌な予感がしてそちらへ向かうと、密閉窓の内側には、七つの小さな芽が規則正しく並んでいた。そして、彼の手元には、登録番号の空白な、人肌に温かい土壌札が。窓の蝶番には、見慣れない金色の花粉が微かに付着している。彼が何かを取り返しのつかない形で、禁忌を犯したことを告げていた。わたしたちはもう、仕事だけの関係ではないはずなのに、なぜ彼は、いま、この状況で、わたしだけにこの真実を暴かせようとしているのだろう。
