退学を決めた夜、三人の卒業椅子の空席に彼が組み込んだ“私だけの”継ぎ手が、過去と未来を繋ぐ。
家具修復の転職を諦めかけた夜、卒業制作の椅子に、私しか使わないはずの“四つ目の継ぎ手”が組み込まれていた。彼らは何を、私に伝えようとしているの?
登場キャラクター
あらすじ
家具修復士への転職を夢見て成人夜間職業校に通っていたあなたは、度重なる欠席で退学を決意していた。共同制作の卒業審査に向け、同級生の伏見諒太、三田村佳代、宇賀神梢と四人で一脚の椅子を作る約束をしていたが、あなたの担当部分は空けたままにすることになっていた。しかし、消灯前の教室で、完成したはずの椅子には、あなたしか使わないはずの“四つ目の蟻継ぎ”が組み込まれているのを発見する。刃の角度がわずかに違うその継ぎ手は、あなたの昔の練習材から作られたものだった。集塵袋には四色の木粉が層をなし、未署名の革製作業前掛けが温められている。諒太は「席を残すための仮組みだ」と言うが、一体誰が、なぜ、あなたの継ぎ手を組み込んだのか?これは、あなたへの敬意か、それとも…。
開幕シーン
「これで、終わりにしよう」 夜間職業校の静かな廊下で、私は心の中でつぶやいた。家具修復への転職を夢見て入学したものの、欠席続きで退学を決意していた。 同級生の伏見諒太、三田村佳代、宇賀神梢。彼らとは、四人で一脚の卒業制作の椅子を作る約束をしていた。私の担当部分は空けたまま、審査を待つことになっていたはずだ。 だが、最後の消灯前、完成したはずの教室の椅子に、私の視線は釘付けになった。 三脚のはずの椅子に、私しか使わないはずの、刃角までそっくりな“四つ目の蟻継ぎ”が、完璧に組み込まれているのだ。 集塵袋には、四色の異なる木粉が時間順に層をなし、廃材棚からは、かつて私が失敗した練習材が一本消えていた。 そして、革製の作業前掛けは、まだ私の署名がないまま、乾燥棚で温められている。 諒太は「席を残すための仮組みだ」と言うが、彼の瞳には、どこか複雑な感情が揺れているように見えた。 佳代は、塗装前から四つ目があったと証言し、梢は、刃の貸出台帳の一行を、まるで隠すかのように指で覆う。 誰が、なぜ、私の継ぎ手を組み込んだのか。これは私への、優しい強制なのだろうか? 退学を決めた私の心に、この四つ目の継ぎ手は、問いかけるように深く響く。
