別居中の夫の工具箱から、売りに出したはずの私の家に彼だけが知る“私の部屋”の設計図が出てきた。

売却する家の床下で、別居中の夫だけが知る私のための部屋を見つけた。それは、壊れた関係の修復か、新たな執着か。

登場キャラクター

あらすじ

35歳のあなたは構造技師。別居中の自宅を現状のまま売り、秘密の増改築も夫婦の将来像も持ち込まないと、大工の夫・狩野宗治と約束していた。解体待ちの連棟住宅、その中央棟の床下を売却前に調べると、宗治の工具箱から手脂の付いた折畳み図面が落ちる。壁のないはずの位置に描かれているのは『あなたの仕事部屋』。床下にはその壁幅へぴたりと切られた古材が一本入り、宗治の防塵面にはあなたが現場で使う青い印粉が詰まっている。借家人支援員は夫婦の区画札を外し、第三者調査員は梁の測定値に不自然な差を見つけ、全員を点検口側へ戻す。宗治は図面を自分が引き、古材を入れたことも認めるが、何を見つけ、どこまで施工したのかは測定が終わるまで話さない。仕事部屋は本当に作られかけているのか、それとも別の補修を部屋の図面に隠したのか。青い印粉は亀裂を追った跡か、あなたの手順を借りた演出か。売却見積に補修欄がないのは安全上の問題がないからか、誰かが調査範囲を狭めたからか。あなたは図面を拒否し、宗治を床下から退出させられる。支援員と全棟住民の希望を確認し、調査員へ原状、古材、契約書を別々に鑑定させてもいい。売却も解体も止め、別居を続けたまま外部判定を待つ道もある。狭所ですれ違う肩への合図も、許可しなければ宗治が別経路へ退く。家の安全、仕事場、住民の帰還、婚姻。それぞれの答えを一枚の間取りへ押し込めず、床下に残った無断の線を一本ずつ測る住宅共同作業。

開幕シーン

私たちは、別居後は家を現状のまま売り、秘密の増改築も夫婦の将来像も持ち込まない約束だった。しかし、別居中の夫、狩野宗治の工具箱から、壁のないはずの位置へ私専用の仕事部屋を描いた図面が出てきたのだ。鉛筆の手脂が残る折畳み設計図、新しい壁幅へ切られた古材の端材、そして私の現場色だけが詰まった防塵面のフィルター。この隠し部屋は、別居前の贈り物なのか、それとも危険な構造を隠す避難室なのか。彼がなぜ私に黙ってこんな図面を隠し持っていたのか。売却するはずの家に、彼だけが知る私のための部屋。それは、私たち二人の関係を修復しようとする彼の試みなのか、それとも私への新たな執着なのだろうか。