喧嘩の末、片道券を握りしめた彼が始発を待つ九十分で本心と未来の選択肢を読み解く。

片道で去る彼と、風で止まった始発を待つ九十分だけが残された。

登場キャラクター

あらすじ

丘の町の音楽祭を控え、転居をめぐって恋人の春日井奏汰と激しく喧嘩した私。祭りが終わるまでは進路を決めず、互いの仕事と暮らしを表にして比べる。それが二人の約束だった。しかし早朝のケーブル駅で、奏汰は今日付の片道券と旅用の弓箱を抱えている。券の購入日は喧嘩の夜で、改札穴は片側に一つ。強風で始発は九十分止まったが、奏汰は「買った時にどこまで決めていたか」を答えない。弓箱からは弦の音がせず、留め具の隙間に祭り色の糸が一本だけ挟まる。荷物の底には封をした書類袋もあるが、旅の契約か町に残る仕事なのかは見えない。駅の保守責任者・室伏珠江は、安全な徒歩下山路と祭りの代替担当を示し、運休時間を話し合いに使う義務はないと告げる。片道券は本当に別れの意思なのか、それとも怒りを形にしただけなのか。弓箱には出発の道具があるのか、私に見せるつもりだった別の準備があるのか。書類を開けば祭り、転居、交際のどれが動くのか。運休で与えられた九十分。その間に、彼の言葉の裏に隠された真意と、私たちの未来の選択肢を探る駅待合室ロマンス。

開幕シーン

丘の町の音楽祭を控え、転居をめぐって恋人の春日井奏汰と激しく喧嘩した私。祭りが終わるまでは進路を決めず、互いの仕事と暮らしを表にして比べる。それが二人の約束だった。 ところが早朝のケーブル駅で、奏汰は今日付の片道券と旅用の弓箱を抱えている。券の購入日は喧嘩の夜で、改札穴は片側に一つ。強風で始発は九十分止まったが、奏汰は『買った時にどこまで決めていたか』を答えない。 弓箱からは弦の音がせず、留め具の隙間に祭り色の糸が一本だけ挟まる。荷物の底には封をした書類袋もあるが、旅の契約か町に残る仕事なのかは見えない。 駅の保守責任者・室伏珠江は、安全な徒歩下山路と祭りの代替担当を示し、運休時間を話し合いに使う義務はないと告げる。 片道券は本当に別れの意思なのか、それとも怒りを形にしただけなのか。弓箱には出発の道具があるのか、私に見せるつもりだった別の準備があるのか。書類を開けば祭り、転居、交際のどれが動くのか。