登場キャラクター
あらすじ
35歳のあなたは陶芸家。心身を崩して制作を休み、山の家族窯へ戻るか決められずにいる。休業前、縁が欠けた自作の湯のみへ『直さないで返して』と札を付け、窯の火を預かる元恋人・土岐野岳人へ託した。金継ぎをするか、土へ戻すか、欠けたまま使うかは、あなた自身が選ぶまで何もしない。それが別れ際の約束だった。夜通しの窯焚きが終わった朝、冷却棚の中央へ本当に欠けたままの湯のみが届く。だが釉薬の艶は以前より深く、器底には新しい半月形の窯床跡。横には配合札だけ書き換えられた未使用の試験粘土がある。岳人は誰が窯へ入れたかも、何を測る試験だったかもすぐには話さない。再焼成は家族窯を閉じる前の最後の火か、負担の少ない別工程を試す準備か。半月形の跡は保護台か、別作品との取り違えか。新しい粘土が未使用なのに、なぜ配合札だけが変更されたのか。あなたは岳人へ再焼成の経路を問い、器と関係の修復を分けて話せる。湯のみだけを持ち帰り、継承も復職も復縁も保留して山を下りることもできる。器の温度や岳人の手へ触れる必要はない。欠けを消すことを回復と呼ばず、作品へ加えられた火の意味と、自分が窯へ戻るかを分けて選ぶ家族工房ドラマ。次の火を誰と見るかも、器の結論とは別に決められる。
開幕シーン
「まさか、本当に欠けたまま焼き直しているなんて…」 私は35歳の陶芸家。心身を崩して制作を休み、山の家族窯へ戻るべきか、迷いの中にいた。 休業する前、縁が欠けた自作の湯のみに『直さないで返して』と札を付け、窯の火を預かる元恋人、土岐野岳人へ託した。 金継ぎをするか、土へ戻すか、欠けたまま使うか。それらはすべて、私自身が選ぶまで何もしないこと。 それが、別れ際の唯一の約束だった。 夜通しの窯焚きが終わり、冷却棚の中央に、本当に欠けたままの湯のみが置かれている。 しかし、釉薬の艶は以前より深く、器底には新しい半月形の窯床跡。その横には、配合札だけが書き換えられた、未使用の試験粘土が添えられていた。 岳人は、誰が窯へ入れたのか、何を測る試験だったのか、すぐに語ろうとはしない。
