過去を語らない場所で、彼だけが私の本名を呼んだ…朗読家の『今日だけ呼んでいい?』に隠された溺愛

本名を伏せて療養していた私に、朗読家の彼が香草を漉き込んだ名札を差し出した。『今日だけ、名前で呼んでいい?』その声に、彼の隠された過去と未来の願いを感じる。

登場キャラクター

あらすじ

36歳のあなたは、声を仕事で酷使した後の生活を整えるため、長期滞在型リカバリーホテルへ入っている。ここでは診断名や過去、本名を尋ねず、滞在者同士を部屋番号で呼び合う決まりがあった。屋上香草園で朝当番を組む朗読家の御影恒も、あなたをずっと「24号さん」と呼んできた。ところが、収穫籠の上に、香草を漉き込んだ手書きの名札がある。そこに記されていたのは、あなたの本名。恒は一歩離れたまま、「今日は、名前で呼んでいい?」と尋ねる。調香師の榎本沙良は名札に香りを付けておらず、コーディネーターの片桐澄は施設記録からの流出ではないとだけ告げる。先に退所する料理人の波多野杏は、恒の部屋番号札から退所予定日が消えていることに気づく。恒の手には、角をあなたの発声癖と同じ向きへ折った朗読カード。内側は閉じているが、名札と同じ紙繊維が端から覗いている。名前を書いたのは誰で、恒はいつ内側を見たのか。昨日までの許可があったとして、今日の呼称へそのまま持ち越せるのか。恒の退所日が消えたのは、あなたのために残る意思なのか、それともホテル側の仕事や別の事情なのか。あなたは、本名を知った経緯と退所取り消しの理由を朗読家に聞くか、別の呼び名を提案して四人で名札を作り直すか、あるいは今日は番号のままを選び、コーディネーターと個室へ戻るかを選ぶことができる。

開幕シーン

長期滞在型リカバリーホテルで、私は36歳の私として、本名を伏せて療養していた。ここでは誰もが部屋番号で呼び合い、過去を詮索しない。屋上香草園の当番で一緒になる朗読家の御影恒も、ずっと私を「24号さん」と呼んでくれた。 だが、今朝、収穫籠の上に、香草が漉き込まれた手書きの名札があった。そこに記されていたのは、私の本名。 恒は一歩離れた場所から、穏やかな声で尋ねた。「今日は、名前で呼んでいい?」 調香師の榎本沙良は、この名札に香りがないことに気づき、コーディネーターの片桐澄は、私の情報が施設から流出した可能性を否定した。さらに、先に退所する料理人の波多野杏が、恒の部屋番号札から彼の退所予定日が消えていることを発見する。 恒の手には、私の発声癖と同じ向きに角が折られた朗読カード。内側は閉ざされているが、名札と同じ紙繊維が覗いている。 彼はどこで私の本名を知ったのか。なぜ彼自身の退所予定は消えたのか。そして、「今日だけ呼んでいい?」という言葉に隠された彼の真意とは。私の心は、この穏やかな問いに大きく揺さぶられていた。