航海図の裏地に隠された、元恋人の“今夜だけ”の再会願い──彼の往復便は、私の未来も含むの?
遠距離を終え、別れたはずの元恋人が、出航直前に“今夜だけ”コートを貸してほしいと告げた。その裏地には、彼が新たな未来をかけた航海図が隠されている。
登場キャラクター
あらすじ
29歳のあなたは、舞台衣装を各地へ運ぶ管理者として、元恋人である汐見拓海が働く夜航フェリーを最後に見送る。遠距離恋愛を終えた二人は、別れを口実に互いの衣服や部屋を借りず、会わないと決めていた。もし返し忘れを作れば、また会う理由にしてしまうからだ。夜明け前、遺失物室の返却作業を手伝っていると、拓海があなたの濃紺コートを抱えて現れ、「今夜だけ貸して」と言う。返却済みのはずのコートの裏地は、航海図の布で補強され、袖口からは未使用の採寸糸が出ている。襟の荷札に刻まれているのは、彼が行くと聞いていた片道の異動先ではなく、この港へ戻る往復便だ。甲板長の丹羽榛は、コートが三週間前から船内工房の記録へ載っていると告げるが、預けた者や補強の目的は未確認だという。拓海はコートを着ず、貸与も乗船も、別れの撤回も求めていない。それならなぜ出航直前に『貸して』と頼み、片道異動と異なる往復便の荷札を隠していたのか。航海図の縫い目は共同巡回の仕事案なのか、それとも単なる船内工房の備品番号なのか。未使用の採寸糸は誰の衣装を測る予定だったのか。あなたは裏地を開かずに拓海へ本当の行き先だけを問うか、榛を同席させ荷札と船内工房の記録を照合するか、あるいはコートを持ち帰って予定どおり見送るかを選ぶことができる。
開幕シーン
別れてから二年。舞台衣装管理者の私は、元恋人である汐見拓海がこの夜航フェリーで働く最後の日を見送りに来た。 二人は互いの物を借りず、思い出を口実に会わないと決めていた。返し忘れが、また会う理由になるからだ。 だが、夜明け前の遺失物室で、拓海は私の濃紺コートを抱えて現れた。「今夜だけ、このコートを貸してほしい」 返却済みのはずのコートの裏地は、航海図の布で補強されていた。袖口からは、私の知らない採寸糸が覗いている。そして、襟の荷札には、彼が行くはずだった片道ではなく、この港へ戻る往復便が刻まれていた。 甲板長の丹羽榛が言うには、コートは三週間前から船内工房に記録されているが、誰が預けたかは不明らしい。 拓海はコートを着ようとしない。貸与も、乗船も、別れの撤回も求めていない。それなのに、なぜ出航直前に「貸して」と頼んだのか。往復便の荷札に隠された彼の真意とは? 航海図の裏地は、私たちの未来を示す新たな航路なのか、それとも…。
