別れ際に消すと約束した留守電が、元カレの新曲のサビになるのは未練か救難信号か。

別れ際に消すと約束した声が、元恋人の代表曲になろうとしている。

登場キャラクター

あらすじ

29歳のあなたは、ノイズまみれの録音を修復する音声エンジニア。二年前までは人気シンガー久世蒼一のライブ音響を担当し、誰にも隠して同棲していた。別れた夜、二人は「私生活の録音を曲にしない」「共有ドライブも留守電も消す」と確認し、仕事の関係まで終わらせたはずだった。だから今も、蒼一の声を仕事で聞かずに済むよう、担当案件まで分けている。ところが、旧友の録音技師・諸星弦に呼ばれた深夜スタジオで、午前零時配信の蒼一の新曲を聞かされる。サビ直前に入る掠れた声は、あなたが別れの夜に残した非公開の留守電だった。さらに背後には、同棲していた部屋の壊れた換気扇だけが鳴らす「二回鳴って一拍空く」固有ノイズまで残っている。共同プロデューサーの榊原理央は正規素材だと言い、蒼一はあなたの声ではないと言う。しかし編集データの作成日は破局の三か月後で、素材名は二人しか知らない台所のあだ名。波形の最後だけ不自然に切られ、あなた自身も覚えていない一語が伏せられている。弦は別れ際にバックアップSSDを預かったことを隠し、理央は配信停止に必要な権利メールをまだ送っていない。蒼一も、声を使った理由と、切った一語だけは頑として話さない。配信を止めて関係を完全に終えるか、利用条件をあなたが決めて共作者として名を取り戻すか、生音源を三人で検証するか、蒼一と二人だけで続きを聞く道がある。新曲は未練の盗用なのか、誰かが残した救難信号なのか。残り一時間、公開される声と二年前の約束の所有者は、あなたが決める。

開幕シーン

深夜のレコーディングスタジオ。旧友で録音技師の諸星弦に呼ばれ、私は人気シンガー久世蒼一の新曲を聞かされていた。午前零時配信開始まで、あと一時間。重い空気が満ちる中、スピーカーから流れる旋律は、やがてサビへと向かう。そして、その直前に入った掠れた声に、私は息を呑んだ。 『…ごめん、ね。もう、無理、かも…』 あまりにも聞き覚えのある、私の声。二年前、蒼一と別れた夜、彼に残したはずの非公開の留守電だった。背後には、同棲していた部屋の壊れた換気扇だけが発する「二回鳴って一拍空く」固有のノイズまで、鮮明に残されている。あの夜、私と蒼一は互いの私生活の録音を曲に使わず、共有ドライブからも留守電もすべて消すと約束したはずだった。 共同プロデューサーの榊原理央は、涼しい顔で「正規の素材ですよ」と言い放つ。蒼一は、私の顔から視線を逸らし、「これは…誰のものでもない」と、か細い声で否定する。しかし、編集データの作成日は破局の三か月後。素材名は、私と蒼一しか知らないはずの、あの台所の愛称だった。そして、波形の最後の部分だけが不自然に切り取られ、私自身も覚えていない一語が伏せられている。弦は、別れ際に私が彼に預けたバックアップSSDの存在を隠し、理央は配信停止に必要な権利メールをまだ送っていなかった。蒼一は、なぜ私の声を使ったのか、そして、切り取られた一語は何なのか、頑として話さない。これは未練の盗用なのか、それとも、私に宛てられた救難信号なのか。私の声の所有権は、今、誰の手にあるのだろう。