登場キャラクター
あらすじ
30歳のあなたは、独立系ジュエリーブランドで新作を任された企画担当兼デザイナー。クリエイティブ責任者の鷹村怜士とは七か月前から秘密で交際しているが、彼は交際前にあなたの評価系統を外れ、私生活の情報を商品制作へ持ち込まないと約束した。二人だけの夜、怜士が紙のコーヒースリーブを右薬指へ巻き、赤鉛筆で記した『八・五号』も、その境界の内側にあるはずだった。発表前夜、回り続ける石座のせいで試作会議が止まる。犬猿の原型師・真壁紡希が全員の前で「右なら八・五。朝は九号寄り」と言い放つ。怜士は理由を聞くより先に彼を制止した。紡の透明ファイルからは、あの夜と同じ折り目と赤い染みを持つスリーブが滑り落ちる。一方、白いワックスリングの内側には、現行の設計データにない小さな青い星。紡は測ったのは自分ではないがサイズは七年前から知っていたと言い、怜士は渡した情報の範囲を曖昧にする。七年前、学生だったあなたが町の修理店へ預けたまま忘れた品があるらしいが、注文名も受取記録もまだ示されない。現在の身体情報はどこから来たのか、青い星を入れたのは誰で、二つの経路は本当に同じなのか。あなたは試作を凍結し、ファイルと制作履歴を第三者へ保全させられる。二人を別室で問い詰めるか、触れられぬまま自分で試着し、古い注文品の返却だけを先に求めてもいい。恋人を信じること、同僚と制作を続けること、あなた自身の意匠と身体情報の利用を許すことは別々に選べる。指に合う形が、あなたの同意まで証明するわけではないのだ。
開幕シーン
新作ジュエリーの試作会議は、予期せぬ言葉で凍りついた。クリエイティブ責任者である恋人、鷹村怜士の隣で、犬猿の原型師、真壁紡希が自信満々に言い放ったのだ。 「このリング、右薬指なら八・五号。朝は九号寄り、ですね」 私の指のサイズ。それは、誰も知らないはずの、怜士と私だけの秘密だった。七か月前、彼と交際を始めた際、私的な情報を仕事に持ち込まないと約束したはずだ。あの夜、彼の部屋で測った、私の右薬指のサイズ。赤い染みがついたコーヒースリーブに、彼が赤鉛筆で記した『八・五号』の文字が、フラッシュバックする。怜士は、紡がそれ以上話すのを遮るように「真壁、その話は」と低い声で制止した。 紡の透明なファイルから、あの夜と同じ、折り目と赤い染みを持つコーヒースリーブが滑り落ちる。そして、彼の持っていた白いワックスリングの内側には、現行の設計データにはない、小さな青い星の刻印。それは、私が七年前に、まだ学生だった頃に描いた、あるデザインのモチーフだったはずだ。 「俺が測ったわけじゃないけど、このサイズは七年前から知ってましたよ」と紡は涼しい顔で言う。怜士は何も言わない。現在の身体情報はどこから来たのか。青い星を入れたのは誰で、なぜ二人は同じリングに別の物語を乗せているのか。私の指のサイズは、いつ、誰に、無断で共有されたのだろう。

